機能性食材アマミシマアザミ -奄美からの発信-

1. NPO法人奄美機能性食晶開発研究会の活動について
 NPO法人奄美機能性食品開発研究会は奄美群島内の病院の医師、鹿児島県議会議員、奄美に縁のある琉球大学教員、健康食品会社役員等より構成され、科学的根拠のある健康食品開発を通じて奄美の経済振興及び人々の健康に貢献する事を目的として、以下の点を支援している。
①奄美の食材、奄美伝統医療に使用されている植物から、生活習慣病予防や治療に利用できる生理活性物質を探索する研究
②生理活性物質を含有する有用な機能 性食品素材の栽培法の研究・開発
③生理活性物質の機能性に関する細胞や動物試験による基礎研究
④生理活性物質の副作用に関するヒト臨床試験
⑤上記①~④の経過を経て開発される安全な機能性食品を安価に提供するための製造、流通、販売システムの開発
 ガン等の生活習慣病は我が国の主要な死因であり、患者は西洋医学の治療を受けながら、同時に補完代替医療(民間療法)を取り入れている状況にある。補完代替医療の内容はその殆どがいわゆる健康食品であり、ガン患者を例にとると、約6割が主治医の了解なく科学的根拠に乏しい或はあいまいな食品を自己判断で摂取しているのが実情である。
翻って、奄美群島における長寿は島の風土と歴史の中で生まれた島野菜料理や山野菜を使った伝統料理が無視できない要因となっていることが指摘されている。長寿世界ーを2名輩出した事実は、日常的に摂取している植物の効能に関するこのような指摘を間接的にではあるが支持するものと考えられる。NPO法人奄美機能性食品開発研究会は奄美群島内に潜在するこのような有用生物資源を発掘し、奄美群島の経済発展に資する一方、科学的根拠のある健康食品の開発支援を通じて、人々の健康に寄与することを目的している。
 2014年農林水産省の全国公募事業である平成26年度新需要創造支援事業のひとつにNPO法人奄美機能性食品開発研究会、琉球大学及び徳之島町連携による事業課題「奄美群島の固有植物であるアマミシマアザミの機能性を活用した新需要の創造」が採択された。本稿では、この国の支援事業によって得られた成果を含めてアマミシマアザミの化学成分や機能性について以下に紹介する。

2.アマミシマアザミの化学成分及び機能性について
 NPO法人奄美機能性食品開発研究会は奄美群島の生物資源を発掘するにあたって、奄美群島に特化した機能性植物を開発するため、以下の観点で有用植物種の絞り込みを行った。
1)奄美群島以南に生育していること。
2)食経験があり、安全性が確保されていること。
3)台風や塩害につよいこと。
4)栽培が容易であること。
5)害虫がつきにくく、またイノシシ等野生動物による食害がないこと。
6)多年性で複数回収穫が可能であること。
 その結果、上述の条件を満たす植物として奄美の在来有用植物60-70種類のうち奄美大島・喜界島・徳之島・沖永良部島・与論島の沿岸部に多く自生しているアマミシマアザミ(和名:シマアザミ、学名:Cirsium brevicaule A. Gray)に着目した。アマミシマアザミの分布域の北限は奄美大島で、琉球諸島や先島諸島から台湾南部にかけて分布している。アマミシマアザミは弥生時代より食経験があり、葉は乳房炎、乳房腫、強壮、解毒、頭痛、勝脱炎、腎臓病、盲腸炎、胎毒、略血、目の充血、根は血便、大腸出血、血夜、リンパ腺炎、打ち身、胃腸病、脚気、腹膜炎、血圧降下、利尿、止血の民間療法に利用されている。これらのことから、アマミシマアザミには何らかの薬効もしくは生体調節機能が期待された。

2-1.アマミシマアザミの化学成分の特徴
(1)アマミシマアザミにはポリフェノールがたくさん含まれている。
図2にアマミシマアザミのポリフェノールの分析値を示す。(アマミシマアザミのデータは琉球大学熱帯生物圏研究センターによる、その他は(独)農業・食品産業技術総合研究機構2001年成果報告「カンショ葉の総ポリフェノール含量及び、ポリフェノール組成Jより引用)。 アマミシマアザミの葉にはレタス、ブロッコリー、キャベツ等の野菜の6-7倍の高濃度のポリフエノールが含まれていた。また、根や茎のポリフェノール含量も比較的高しミと判断された。また、市販の青汁原料と比較しても、格段にポリフェノール濃度が高いことが明らかで、あった(図3)。ポリフェノール類を単離して構造解析した結果、主要成分のひとつはペクトリナリンであることが判明した(図4)。ペクトリナリンには抗酸化作用、抗炎症作用、免疫増強作用、抗腫蕩作用、肝障害抑制作用があることが実験的に証明されているが、他の代表的なポリフェノール(アントシアニン、カテキン、 クロロゲン酸等)に比べて研究例はまだ少なく、今後新しい機能性が見つかることも期待できる。(アマミシマアザミに含まれている他のポリフェノールについても現在構造解析中)(2)アマミシマアザミの油にはα・リノレイン酸が多く含まれている。アマミシマアザミ粉末は5%程度の油を含有するが、その脂肪酸の約50%は必須 脂肪酸のα-リノレイン酸であった(図5)。油脂の構成脂肪酸はその機能の特徴からω-3系列とω-6系列に分類することができ、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサンエン酸(DHA)に代表されるω-3系列の脂肪酸にはコレステロール低下、中性脂肪低下、動脈硬化病変予防、高血圧予防、脂肪肝予防、認知症予防、アレルギー症状の緩和等の作用があることが知られている。αーリノレイン酸はω-3系の脂肪酸であり、体内でEPAやDHAに転換されて身体にいい効果を及ぼすことが期待できる。現在の日本人のα-リノレイン酸の摂取量は約2.5g/日であり、たとえアマミシマアザミ粉末をl日あたり10g摂取したとしても期待で、きるα-リノレイン酸の摂取量は約0.25g程度で全体の10%相当に過ぎないことになる。しかしながら、食用植物油脂のα-リノレイン酸含量は少なく(図5)、最も多く含む菜種油や大豆油でも10%前後であることを考慮するなら、アマミシマアザミは欠乏しがちなαーリノレイン酸の貴重な補給源になると考える事ができる。



2-2.アマミシマアザミの機能性について
(1)アマミシマアザミ抽出物は脂肪酸合成遺伝子の発現を抑制した。高脂肪食と一緒にアマミシマアザミ粉末をマウスに摂取させると、肝臓や脂肪組織の脂肪酸合成酵素遺伝子の発現が抑制され、脂肪酸生合成能が低下した(図6)。体内の脂肪の収支は食事からの供給、生体内での合成、エネルギ一転換による消費のバランスによって決定される。アマミシマアザミの抽出物には体内における脂肪合成酵素遺伝子の発現を抑制することにより体内に脂肪が溜まるのを防ぐ作用があると考えられる。
(2)アマミシマアザミ抽出物は非アルコール性肝障害の原因である肝臓への脂肪蓄積(脂肪肝)を抑制し、肝障害マー力一(AS丁、ALT)を抑制した。 脂肪肝とは、肝臓に脂肪が蓄積する病気で、悪化すると肝臓に炎症をおこし、最終的には肝硬変や肝細胞ガン等の致死性の疾患に進行すると考 えられている。脂肪肝は食生活の改善や運動以外に有効な治療法はなく全世界で、大きな問題となっている。アマミシマアザミ粉末を高脂肪食と一緒にマウスに摂取させると、肝臓の脂肪蓄積や肝臓障害が軽減された(図7)。アマミシマアザミは、肝臓の脂肪酸合成酵素遺伝子の発現を抑制する機能があり、脂肪肝の発症を防ぐ作用があると考えられる。脂肪の蓄積を抑える方法としては一般論として摂取エネルギーを抑えるか、脂肪の消費を促進するかのいずれでも可能である。市販されている脂肪蓄積抑制を指向した健康食品はエネルギー消費を促進するものが殆どであり、生体内での脂肪酸合成抑制を謡った製品は少ない。体内に蓄積する脂肪の収支の観点からのみ考えた場合はおそらく分解促進と合成抑制は量論的にほぼ同義であると思われる。つまり、いずれの方法でも良い事になる。しかしながら、生体内における脂肪酸生合成は単なる脂肪供給源としての量論的な意昧合いよりも細胞の形質と連動する生理的意義が注目されてきている。具体的には、上述の脂肪肝から肝硬変への病変の悪化は肝臓における脂肪酸生合成が抑制されている限り起こらないが、脂肪酸生合成抑制の解除を契機として肝硬変が惹起されることが報告されている。つまり、脂肪酸生合成はガン等の悪d性の病変への進行において何らかのシグナルとして機能していることが推察される。アマミシマアザミの脂肪酸合成酵素遺伝子発現抑制活性は強いことから、脂肪分解促進成分にはない、このような潜在的機能についても今後明らかにされていくものと期待している。
(3)アマミシマアザミ抽出物は血液中の遊離脂肪酸濃度を減少させた。 アマミシマアザミ粉末を高脂肪食と一緒にマウスに摂取させると、血液中の遊離脂肪濃度が低下した(図8)。血液中の遊離脂肪酸は脂肪肝発症に対する重要な危険因子であり、遊離脂肪酸濃度が高いと、これが肝臓に流入・蓄積し脂肪肝を誘起する。アマミシマアザミ抽出物はおそらく生体内での脂肪酸生合成の抑制を介して、血液中の遊離脂肪酸濃度を低下させ、肝臓への脂肪蓄積を防ぐ作用があると考えられる。



    

2-3.アマミシマアザミに含まれている脂肪酸生合成抑制物質について
 アマミシマアザミには機能性が既に証明されている成分も含まれているが、脂肪酸生合成抑制活性成分はこれら既報の物質とは異なること、さらに肝臓に作用する成分と脂肪組織に作用する2つの異なる成分が含まれていることがこれまでの一連の研究により明らかにされている。肝臓に作用して脂肪酸生合成を抑制する成分については既に化学構造も明らかとなっており、その詳細な作用機構の検討を進めている状況にある。しかしながら、原著論文として発表されるまでは、“この物質はアマミシマアザミにかなり特徴的な成分であろう"と考えていることを本稿では述べるにとどめたい。脂肪組織に作用して脂肪酸生合成を抑制する成分についても現在分離精製と構造解析を進めており、2つの有効成分の相乗作用についても今後検証すべき重要な課題である。
3.アマミシマアザミの知的所有権などの状況
 アマミシマアザミの機能性については琉球大学、NPO法人奄美機能性食品開発研究会及び株式会社アミノアップ化学の共願で特許を取得している(特許第6467345号 脂肪蓄積抑制剤、脂肪肝の予防剤又は治療剤及び脂肪酸合成酵素抑制剤)。

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